鼓膜切開とチューブ留置

 急性中耳炎あるいは滲出性中耳炎のために中耳にたまった「膿」や「水」を抜くために、「鼓膜切開」という治療処置をすることがあります。右の図の様に、専用のメスで鼓膜を小さく切開して中耳の膿や水を吸い出します。一瞬ですが強い痛みを伴うので、通常は耳の中に麻酔液を10−15分間ほど入れ、局所麻酔をします。麻酔液を入れてじっとしていられないような幼少児は、しかたがないので無麻酔で行なう場合があります。
 切開した穴は通常は1−2週間で自然にふさがりますが個人差がありますし、稀にはふさがらないこともあります。切開した後は、プールは避けなくてはなりませんし、入浴や洗髪の時は耳に水が入らないように注意が必要です。
 医師によって、どのタイミングで、どの程度の回数の鼓膜切開をするかが異なります。膿や水がたまっていればすぐに、何度でも切開をする先生もいますし、できるだけ切らないで内服治療などで粘って経過を見る先生もいます。どちら絶対的に正しいということはなく、それぞれに利点・欠点があると思いますので、医師と十分に話し合って方針を決める必要があります。




鼓膜切開刀


 鼓膜切開の長所は、「速やかに膿や水が抜ける」ため、痛み・難聴などの症状を速く取り除けることです。そのため抗生物質の内服を必要最小限にできます。一方で欠点もいくつかあり、まず、麻酔をしても切開の瞬間は痛みや、不快感を伴うことがあります。そのため子供の患者であれば診療そのものに恐怖心を持ってしまい、その後の診察がスムーズに行かなくなることもあります。また、治療手技の費用が高いため、過剰に行ないすぎると医療費がかさむことになります。切開の手技は保険点数制度で690点(イオン麻酔をするとプラス45点)と定められています。1点が10円ですので実費は6,900円ですが、患者負担は3割負担の方では2,070円、1割負担の方は690円です。また、費用の問題以外にもいくつかの留意点があります。例えば鼓膜の薄い人や炎症を繰り返している人であれば、切開した穴がふさがらずに逆に大きくなってしまい、聴力が低下することも稀にありますし、切開した部位から真珠腫というできものが形成され手術が必要になる可能性もわずかにあります。施行するかどうかは医師と十分相談してください。
 当クリニックでは、「切開することが他の治療よりも明らかに良い」、と判断できる場合に施行します。例えば、急性中耳炎では、膿で鼓膜が著明に腫れていて「抗生物質の内服だけでは痛みが長く続きそうな場合」や、「中耳の膿が内耳の聴こえの神経に影響を及ぼしている可能性のあるとき」です。また、滲出性中耳炎では「長い期間日常生活で明らかに聞こえが悪く生活に支障がある場合」や「水がたまっているために急性中耳炎を繰り返す場合」に施行します。子供の滲出性中耳炎患者は、根本的な問題が解決しないと、切開してもまたすぐに水がたまるので必要最小限の施行回数にしています。

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