鼓膜切開とチューブ留置

 鼓膜切開をしても、通常1−2週間で切開した部位はふさがってしまいます。滲出性中耳炎の場合、水がたまる根本的な原因が改善されないと、鼓膜がふさがってしまえば再び水がたまります。そうするとその都度切開をしてゆく必要が生じ、通院回数や治療の費用が増えてしまいます。そのため、何度も切開を繰り返さなくてはならないような方には、「鼓膜チューブ」を留置することがあります。鼓膜を切開した穴に、右の図の様な軟素材のチューブを留置し、鼓膜を通して直接、外界と中耳の空気の交換をさせるものです。これにより外界と中耳の気圧差はなくなり中耳に水がたまるのを防ぐことができます。チューブは通常数ヶ月入っており、自然に抜けることが多いです。稀に、入れて2−3日で抜けてしまうことがある一方で、3年くらい入っていたこともあります。
 鼓膜の全面積と比較してチューブは小さいので、チューブが入っていることで、聴力が低下することは通常はありません。また、「チューブが入っている」ということを感じることもありません。




チューブ
ボールペンとの大きさ比較。
ボールペン上の青い物が鼓膜チューブです。

 成人の患者であれば、外来にて局所麻酔で施行できます。麻酔に15分くらい、留置に2−3分くらい要します。耳の中で「ゴソゴソ」と処置をしますので、小さな子供さんで嫌がって動いてしまうような場合には、外来ではできません。近隣の総合病院の耳鼻咽喉科で全身麻酔によって行ないます。実際の施行時間は5分くらいなのですが、全身麻酔で行なう場合は、2泊3日あるいは1泊2日の入院が必要です(施設によって多少異なります)。ちなみに当クリニックは入院施設はありませんので、全身麻酔でのチューブ留置が必要と判断した場合には、入院施設のある病院を紹介いたします。
 チューブの問題点としては以下のことが挙げられます。
1)チューブの感染
 チューブ自体がいわば「異物」なので、チューブが入っていることによって感染を繰り返してしまうことが、ときどきあります。チューブのために感染が増えるようなら、抜去してしまわなくてはなりません。抜去は外来で可能です。
2)チューブの脱落
 入れて2−3日ですぐ抜けてしまうことがあります。再挿入は可能です。費用については各病院・クリニックで相談して下さい。
3)チューブの落下
 留置する操作中に、あるいは留置後しばらくして、チューブが中耳の方に落ちてしまうことがあります。感染を起こさなければそのまま様子をみていても問題ないかもしれませんが、やはり異物なので摘出が必要になります。ごく稀に自然に鼓膜を貫いてでることもありますが、通常は摘出のための処置が必要になります。成人であれば外来で摘出できることも多いですが、子供の場合は全身麻酔で行なう方が安全です。
4)チューブの閉塞
 耳垢(みみあか)や耳だれが固まったもので、チューブがつまって機能しなくなることがあります。外来で再開通させることが可能な場合もありますし、交換が必要になることもあります。
5)チューブ抜去後の鼓膜穿孔の残存
 チューブが抜けた後、鼓膜の穴が自然に閉じず残ってしまうことがあります。穴が拡大したりすると聴力が低下するので鼓膜閉鎖の処置や手術が必要になることもあります。耳の構造上、チューブ脱落後に穿孔が残ってしまいやすい方がいらっしゃると思います。
6)費用について
 鼓膜チューブ留置は「手術」に相当し、その費用は保険点数制度で定められおり、2,670点です。1点は10円なので26,700円ですが、保険適応ですので3割負担の方は8,010円、1割負担の方なら2,670円です。これはあくまでも手技料ですので、他にチューブの代金、初診あるいは再診料、他の検査などを施行していればその代金、投薬料などがかかります。
 
 その他にも、いくつかの注意点がありますので、施行前に医師から十分な説明を受けて下さい。



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