突発性難聴の治療について



原因がまだわかっていないので、「これをやれば確実!」という治療はありません。ただし、「内耳の血流障害」が最も考えられるため 細かい部分の血流を改善させるような治療をすることが推奨されています。
 
いずれの治療も、発症後できるだけ短期間に開始することが望まれます。 発症後1ヶ月を過ぎてしまうと、治癒する可能性は極めて低くなります。 具体的には

1)ステロイド(内服や点滴)
2)血流を改善させ得る種々の薬剤(内服や点滴)

3)高圧酸素療法:高濃度の酸素を投与する方法(入院して施行することが多いです)
4)星状神経節ブロック:頸部の交感神経に麻酔をし、血管を拡張させて血流を改善する方法です。
5)ステロイド鼓室内局所注入
などがあり、併用する治療として
6)ビタミンB12
7)精神安定剤   などもあります。

 私は、北大病院耳鼻咽喉科の聴覚専門外来で、他院から数多くの患者さんを紹介していただき治療して参りましたが 主に、1)2)を中心として、必要に応じて3)を行なって来ました。 3)は大掛かりな設備ですので、大学病院などの大きな病院が有しています。通常は入院して施行します。 4)については推奨する先生もいますし、効果のある方も中にはいるのだと思いますが、 しっかりとした科学的なデータとしてその治療単独での有効性は示されてはいないと考えています。 麻酔科の先生が主として行なう治療なので、患者さん側から強い希望があればご紹介しますが、 頸部に針を刺して薬液を注射しますので、合併症の可能性も少しあります。 5)については2007年時点で国内ではまだあまり一般的ではなく、当クリニックでも第一選択治療にはしていませんが、 糖尿病などがあり、ステロイドを内服したり点滴したりできない方には試みても良い治療ではないかと思います。 施行している施設は限られています。

 2)にも、さまざまな薬剤が提唱されています。循環改善剤、代謝賦活剤、プロスタグランジン製剤、 低分子デキストラン、ウログラフィン、利尿剤、デフィブラーゼなどです。施設によっては、 ある薬剤を「これが効いた!」のように述べているところもありますが、 残念ながら科学的統計学的検証で、「これが他の治療より間違いなく効いて、安全性にも問題ない」 というものはありません。1994年に当時の厚生省特定疾患急性高度難聴研究班が全国的な臨床試験を行ないました。 私も当時在籍した北大病院の研究グループの一員として参加しました。 これは、それまでわが国で突発性難聴の治療に使用してきたいくつかの薬剤を、患者の同意のもと「単剤で」使用し、その効果を比較検討したものです。 その結果、それぞれの薬剤での治療成績には有意な差は認められませんでした。 したがって、現時点では突発性難聴に対して飛びぬけた薬剤治療は存在しない、と言わざるを得ないと思います。  
上記の1)−7)のうちいくつかを、各医療施設の方針として組み合わせで行なっているのが現状です。

 また、治療以外にも内耳の血流を少しでも良くするような日常の心がけが必要です。 睡眠や入浴時間を十分取り、心身をリラックスさせることは非常に重要です。精神的・肉体的ストレスを少しでも緩和させるように努力しましょう。 ストレスがあると自律神経を介して、細い血管は収縮して血流は低下します。タバコはニコチンが末梢血管を細くしてしまいますので非常に悪影響です。

 入院を勧める施設もありますが、これは一概には正しいとも誤りとも言えません。 絶対に入院が必要ということもありませんし、入院した方が治癒率が高かったという科学的データもありません。 ただ、入院したほうが治療や検査が無理なくスムーズに行なえたり、「入院までしたのだから」という本人の納得が得られる場合もあります。 連日点滴などをする場合が多いので、通院が疲労を招くようなら入院した方が良いでしょうし、 入院することで仕事や家事から一時的に解放されるならその方が良いと思います。 一方で、入院はしてみたものの病院の待遇が悪くて逆にストレスが多い、 医師の説明がなく逆に不安になった、 同室者のいびきで夜寝不足になった・・などということもあります。 入院に関しては治療を受ける施設で十分な相談が必要と思います。  

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